平成30年度

さくら市・小さな拠点づくり推進事業

「さくら市・小さな拠点づくり推進事業」
代表者:石井大一朗(地域デザイン科学部コミュニティデザイン学科 准教授)
共同研究者:

  • 坂本文子(地域創生推進機構地域デザインセンター 特任研究員)
  • さくら市 総合政策部総合政策課
  • 1.はじめに
    本共同研究は、2016年度から始まり3年目である。小学校区を基本とする地域コミュニティの形成を図りつつ、住民自らが地域で課題共有を進め、課題解決に向けて主体的に取り組むスキームを構築することが、大きな目的である。3年目に当たる2018年度は、モデル地区「河戸地区」(市内の7区域別の人口減少率と高齢化率が共に1番)を対象として、⑴住民らによる地域コミュニティ・ネットワーク(地域協議体)の形成支援を行うと共に、⑵補助金制度などの地域支援施策の検討を行う。また⑶2017年度に実施したアンケート調査をもとに①や②の取組に資する2次分析を行うことが具体的な取組みとなる。

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    図1 調査対象地と人口減少率

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    図2 完成した地区カルテの活用に向けた住民意見交換会の様子

    2.研究の内容と成果
    ⅰ)住民らによる地域コミュニティ・ネットワーク(地域協議体)の形成支援
    2017年度に実施した中学生以上を対象としたアンケート調査の結果をもとに地区カルテの最終版を作成した。これを地域住民のキーパーソンらにフィードバックするとともに、活用法などについて意見交換を行うワークショップを開催した(2018年8月28日)。この他、次のような取組を行った。共同研究を契機として生まれた4行政区連携による「ごじゃっぺ祭り」(2018年9月24日)の協力、廃校となった学校を拠点とするコミュニティづくりに関する先進地視察を那須町の2つの旧小学校を対象として実施(2019年2月6日)。これまでの共同研究の成果を振り返るワークショッツプの開催(2019年3月中旬予定)。
    ⅱ)補助金制度などの地域支援施策の検討
    4行政区の連携による今後の地域づくりの留意点として次の点を導き出した。①交流や福祉的な活動を重視した活動を主とする。②4つの行政区の組織的な合流を主とするのではなく、行政口長等のOBなどの地域実践者がネットワーク団体を作り、地区全体で取り組むべき活動を設定して取り組む。③行政区などのように市役所や社会福祉協議会などとの結びつきが弱く、活動資金を十分に確保できないことから、当面、財政的な支援が必要である。④地区の特性に合わせた地域づくり支援を行うため、市役所庁内の地区ごとの支援体制の必要性や内容に関する検討を継続的に行う。


    表1 合流しやすさの判定結果
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    図3 合流活動分類

    分析の視点と方法:
    異なる住民層がどのような活動に取り組むと連携しやすいのか“AA”。他方、どのような活動に取り組むと連携しにくいのか“NAA”を分析する。分析は主成分分析の成分と元の成分との相関係数の比較から行う。活動a〜活動nそれぞれの相関係数のスコアが+0.3以上、−0.3以下のスコアの数を+、−ごとに抽出し、その上で、+0.3以上、−0.3以下のスコアを3つ以上含むものをAA、NAAの対象とし、NAAには−のスコアが2つ以上あるものを抽出した。図 3に合流しやすさの程度によりAA+ +〜NAA— —の5段階に分類したモデル図を示す。相関係数のスコアの+− の数と、活動の判定を示したものが表1である。

    ⅲ)2017年度に実施したアンケート調査をもとに①や②の取組に資する2次分析
    二次分析は、高齢化を伴う人口減少が進む地方都市周辺部における住民主体の地域活性化支援に向けて、住民の活動意向に着目したコミュニティ分析を通して、具体的な地域活動支援の方法を明らかにすることが目的である。分析は、地域活性化に自らが取り組むという当事者の意向を重視し、“今後どのような活動に取り組んで行きたいか”に関して調査票調査をもとに行った。分析の結果、「助け合い活動の軸」「都市型コミュニティの軸」「変化を望まない女性の軸」などの7つの異なる住民層の存在が明らかとなった。また具体的な活動支援に向けて、“異なる住民層はどのような活動であれば合流しやすいのか”、“どのような属性を持つ住民に配慮をすればよいか”といった分析を行った。その結果、特に合流しやすい活動として「趣味やお稽古ごとのできる場づくり」、特に合流しにくい活動として「子どもに関する活動群」が示された。またこれらの活動をする際に、「現在の地域活動への参加が消極的な人たち」に対して特に配慮が必要となることを示した。

    おわりに
    河戸地区を対象として、統計データにより地区特性を明らかにしつつ、住民への定量的・定性的データを元に今後の地域活性化に向けた組織づくりと、行政による支援制度の方策を描く事ができた。次年度以降も研究を継続し、方策の検証と改善策を示していきたい。